1月号
この9ヶ月間、園児と遊びながら、4人の子育ての頃を思い出したり、親に依存しなければ生きられない 乳幼児の無力さや、大人がどこかに置き忘れた純真無垢(innocence:「無知」という意味もある)のことを 考えた。
乳幼児は死という恐怖をまだ想像できなことを、親になって初めて気づくことがあった。子どもを海水 浴に連れて行き浮袋に入れて沖へと連れ出していく。子どもは海の怖さについて無知だし、親が自分を 置き去りにして岸へ戻るかもしれないという不安は想像さえできないで、無邪気にはしゃいでいる。まだ 人の裏切りや悪意を経験しない、そんな子どもの純真無垢な心に感動し、何がなんでもこの子を守って やらなければと思うことは、どんな親でも経験することだろう。また、そんな可愛い子どもでも、いつま でも寝ないで長泣きしていたりすると、カーッとなってベランダからほうり投げたくなった一瞬も覚えて いる。
幼稚園に入る頃から、子どもは家族以外の子ども集団の中で、先生や遊びを通してルールやマナーを 学び、共感力や対話能力を身につけていく。声をかけ合いながら遊ぶ、あるいは一人空想にふけって人 形に何か話しかけることが、子どもの大切な勉強なのだなあと、園児を見ながら改めて感じる。やがて子 どもは自立への道を歩き始め、つないでいた親の手を少しずつ離す。イヤなことや裏切りを経験し、無知 =純真さを失い、生き延びるための知恵を得る。親の目から自由になることの代償として、自分で解決し なければならない問題に何度も直面し、乗り越えて行く。そういう経験を積み重ねながら人は成熟へと 向かう。
ただ孤独や不安、対人関係や自己嫌悪に悩み苦しむ時が必ずある。そういう時にかつて赤ん坊だった ことを思い出して、という歌がある。中島みゆきの「誕生」。その歌のリフレインは、「Remember∕生まれた とき∕誰でも言われたはず∕耳をすまして∕思い出して∕最初に聞いた∕Welcome」。(welcomeは「ようこそ」 という意味)。親にとって生まれてきた赤ん坊は、無条件に可愛い。大人になっても、幼児の時に味わった 父母のぬくもりの記憶は胸底に残っている。そのぬくもりとは、言葉をまだ知らない赤ん坊が全身の五感 で受け取った「あなたが生まれてきてうれしい」というメッセージなのだ。祝福されて生まれたことを、次 の世代にリレーしていく。このことを感じ考えた9ヶ月であった。
(園長:今石正人)
